ハオリムシのページ

 

 海洋科学技術センター深海調査船しんかい2000から見た御前崎沖冷湧域の化学合成生物群集。2種のハオリムシが共存している。

  

  ハオリムシ(チューブワーム)類は、深海の化学合成生物群集を代表する動物群で、口や消化器官を持たず、栄養体と呼ばれる、体の大部分を占める組織の細胞中で化学合成細菌が作る有機物に依存して生きています。一時は、ハオリムシ類のために新しい動物門が提唱されたこともありましたが、トロコフォア幼生期を持つこと、着底直後まで消化管を持つこと、体の後端部にゴカイのものとよく似た剛毛を持つことなどから、環形動物、特に多毛類(ゴカイ)との近縁性が指摘されて来ました。私達やMcHUGH博士のエロンゲーション ファクター 1αのアミノ酸配列に基づく系統解析でも、ハオリムシが、ゴカイが適応放散した後に、ある種のゴカイから進化したこと、言い換えれば、ハオリムシ類は”変形したゴカイ”であることが示されています。右の図は、ハオリムシの進化過程を模式的に示したものです。
 こうした知見に基づき、ハオリムシは、同じ様に消化器官を持たず、化学合成細菌と細胞内共生をしているヒゲムシ類とともに、有鬚動物門に分類されるか、共に環形動物門に入れられるのが一般的です。しかしハオリムシやヒゲムシがどの様なゴカイから進化してきたのかは、まだ分かっていません。




 ハオリムシ類は、現在のところ7つの科、8つの属に分けられ、14種が記載されています。以下は、ハオリムシ分類の第一人者であるSouthward博士によるハオリムシ類の分類体系です。

   Subclass OBTURATA
        Order AXONOBRANCHIA
            Family RIFTIIDA
                Genus Riftia
        Order BASIBRANCHIA
            Family Lamellibrachiidae
                Genus Lamellibrachia
            Family ESCARPIIDAE
                Genus Escarpia
            Family TEVNIIDAE
                Genus Tevnia
                Genus Oasisia
            Family RIDGEIIDAE
                Genus Ridgeia
            Family ALAYSIIDAE
                Genus Alaysia
            Family ARCOVESTIIDAE
                Genus Arcovestia

 相模湾初島沖の冷湧水域における最初の発見以来、日本の周辺の多くの海域でハオリムシが見つかっています。 しかし一部の研究者の都合で分類が停滞し、鹿児島大学(現 宮崎大学)の三浦教授によって記載されたサツマハオリムシLamellibrachia satsumaを除きまったく名前が付いていません。最初から三浦さんが、分類を進めてくれればと思うと、返す返すも残念です。

 しかし、ハオリムシは、化学合成生物群集の中心となっているグループのひとつですので、どこの種とどこの種が同種で、どこの種が違うかが、いつまでも分からなければ、生態学や生理学の研究にも支障がでます。そこで、ミトコンドリアDNAの塩基配列に基づく暫定的な分類をおこなっています。将来、形態に基づく 検証と記載が必要なのは言うまでもありません。  

 解析の結果、ビスマルク海(パプアニューギニア)を含む西太平洋には、4つのグループのハオリムシが生息していることが、明らかになりました。

 第1のグループは、Lamellibrachiaの仲間です。この属は、次のEscarpiaとともに東西太平洋だけでなく大西洋にも分布し、また水深500mよりも浅い場所に生息しています。世界で最も浅い生息地である鹿児島湾産のサツマハオリムシもこのグループに属しています。分子情報に基づく解析から、西太平洋には、サツマハオリムシの他に、少なくとも6種の未記載種が生息していると考えています(下の表参照)。

御前崎沖冷湧域で採集されたLamellibrachia sp. L1


 第2のグループは、Escarpiaの仲間で、分子から暫定的に2種、水深300mのサイト(静岡沖の金洲の瀬)でのみ見つかっているEscarpia sp. E1と1000m以深に生息するEscarpia sp. E2がいると考えています。後者は、おそらく世界で最も広範囲に分布するハオリムシで、東海沖の南海トラフからパプアニューギニア島沖まで分布しています。ニューブリテン島を挟んで、マヌス海盆の反対側に位置するエジソン海山からも、この仲間が採集されており、Southward et al. (2002)によってEscaripiidae科第3の属Paraescrpiaの模式種P. echinospicaとして記載され ました。上のEscarpia sp. E2は、このP. echinospicaである可能性が高いと思われますが、まだ形態に基づく検討がおこなわれていません。

御前崎沖冷湧域で採集されたEscarpia sp. E2

 

 第3は、マヌス海盆のビエナ ウッズサイトで、ロシアの潜水船Mirにより採集されたArcovestia ivanoviで、デスモスサイトやパックマヌスサイトにも生息していることが確認されています。

 これら以外に以前から、細いコイル状(ラーメン状)のチューブを作るハオリムシが、相模湾、南海トラフ、沖縄トラフから知られています。これらは、分子系統樹上で、単系統群を形成し、Arcvestiaと姉妹群となることが示されました。ラウ海盆に生息するAlaysia spiralis 模式種とするAlaysia 属に分類するのが妥当との事です(宮崎大 三浦教授 私信)。

 

西太平洋産ハオリムシ リスト (2003年10月現在)

相模湾初島沖 (830-1430m 冷湧水域)  Lamellibrachia sp. L1, Alaysia sp. A1
金洲の瀬 (290-330m 冷湧水域)  Lamellibrachia sp. L1, サツマハオリムシ, Escarpia sp. E1
南海トラフ第2天竜海丘 (590‐610m 冷湧水域)  Lamellibrachia sp. L1
南海トラフ竜洋海底谷 (1090-1100m 冷湧水域)  Lamellibrachia sp. L1, Escarpia sp. E2
南海トラフ御前崎沖 (1140-1200m 冷湧水)  Lamellibrachia sp. L1, Escarpia sp. E2
南海トラフユキエ海嶺(1940-2180m 冷湧水)  Lamellibrachia sp. L2, Alaysia sp. A1
南海トラフ熊野沖 (2500-3200m 冷湧水域)  Lamellibrachia sp. L2
南海トラフ室戸岬沖 (3210-3270m 冷湧水域)  
Lamellibrachia sp. L2
鹿児島湾 (82-110m 熱水域) サツマハオリムシ
喜界島沖 (1440-1650m 冷湧水域)  
Escarpia sp. E2
沖縄トラフ伊是名海穴 (1310-1580m 熱水域)  種不明*
沖縄トラフ伊平屋海嶺 (1400-1430m 熱水域)  Lamellibrachia sp. L1, Escarpia sp. E2, 
                               Alaysia
sp. A2
沖縄トラフ北伊平屋海丘 (1050m 熱水域)  Lamellibrachia sp. L1, Alaysia sp. A2
沖縄トラフ南奄西海丘 (640-710m 熱水域)  種不明*
与那国島沖 (1500m)  未確認
第3与那国海丘 (1300-1400m 熱水域)  Alaysia sp. A4
黒島海丘 (680-810m 冷湧水域)  
Lamellibrachia sp. L1, Lamellibrachia sp. L5
スミス海山 (670-690m 熱水域)  Lamellibrachia sp. L1, Escarpia sp. E1, Alaysia sp. A1,
木曜海山 (1260m 熱水域)  種不明*
日光海山 (430m 熱水域)  サツマハオリムシ
南マリアナトラフ TOTOカルデラ (2900m  熱水域) Lamellibrachia sp. L7
マヌス海盆ビエナウッズサイト (2490-2500m 熱水域)  Arcovestia ivanovi*
マヌス海盆パックマヌスサイト (1650-1700m 熱水域)  Lamellibrachia sp. L4, Escarpia sp. E2, 
                                      Arcovestia ivanovi, Alaysia sp. A3
マヌス海盆デスモスサイト (1900-1910m 熱水域)  Lamellibrachia sp. L7, 
                                 Arcovestia ivanovi, Alaysia sp. A3

パプアニューギニア島沖 (冷湧水域) 
Lamellibrachia sp. L6, Escarpia sp. E2, Alaysia sp. A3
北フィジー海盆ホワイトレディサイト (2000m 熱水域) Arcovestia ivanovi*

* 分子データなし

 

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