平成12年度日本ベントス学会 発表要旨

日本列島におけるホソウミニナBatillaria cumingi

の分布と遺伝的集団構造

 

小島茂明(東大海洋研)林  育夫(日本海区水研)

飯島明子・風呂田利夫(東邦大理)

 

 

  日本列島の干潟の代表的な巻貝であるホソウミニナBatillaria cumingiは、直達発生をする事が知られており、プランクトン幼生期を持つ近縁種に比べ容易に地理的に隔離され、各地方集団が特徴的な遺伝的性質を持つ事が予想される。集団間の遺伝的分化を定量化し、その系統関係と地理的分布を解析する事により、日本周辺の海洋環境の歴史的変遷が集団に及ぼした影響を評価するとともに、過去の海洋環境の推定が可能となる事が期待される。また得られた知見は、干潟の生物群集の保全策を考える上でも、その生物相形成の進化史的背景に関して有益な情報がもたらすであろう。
  日本列島におけるホソウミニナの分布域をカバーする約20ヶ所の集団、各20個体程度のミトコンドリアDNA・COI領域の塩基配列(約500塩基対)を決定し、集団構造を解析した。発生様式から予想される様に、ホソウミニナの地方集団は、近縁なウミニナに比べ集団内の遺伝的多様性が比較的小さいのに対し、集団間の差異は大きく、しばしば隣接する海域間(東京湾の内外、瀬戸内海の東西、有明海と東シナ海等)でも集団の遺伝的性質が異なる現象が見られた。日本のホソウミニナ集団は、遺伝的に大きく異なる対馬暖流および親潮の沿岸域のグループと、黒潮の沿岸域および有明海の集団に分かれ、両者はさらに、いくつかのサブグループへ遺伝的に分化している事が明らかになった。

 

Shigeaki Kojima, Ikuo Hayashi, Akiko Iijima and Toshio Furota
Distribution and genetic structure of Batillaria cumingi around the Japanese Islands

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